この計算ツールでできること
「目標pHの緩衝液比率計算ツール」は、狙ったpHを実現するために、弱酸に対して共役塩基をどれだけ加えればよいかを正確に示します。ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式を変形しているため、目標pHと緩衝液のpKaを入力するだけで、必要な[塩基]/[酸]のモル比と、各成分の割合(%)が瞬時に得られます。これは普遍的な化学法則に基づいているため、どの国・地域でもそのまま使えます。
使い方
緩衝液で維持したいpHと、使用する酸塩基共役対のpKaを入力してください(例:酢酸 pKa 4.76、リン酸 pKa 7.2、Tris pKa 8.06)。すると、共役塩基と酸の比率、および緩衝液全体に占める各形態の割合が表示されます。この比率に酸のモル数を掛ければ、加えるべき塩基のモル数が求められます。
計算式の解説
ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式は \(\text{pH} = \text{pK}_a + \log\left(\frac{[\text{塩基}]}{[\text{酸}]}\right)\) で表されます。これを比率について解くと、 $$\frac{[\text{塩基}]}{[\text{酸}]} = 10^{\,\text{pH} - \text{pK}_a}$$ となります。pHがpKaと等しいとき比率は1(50:50の混合)となり、これが緩衝能が最大となる点です。pHがpKaより1単位上がるごとに比率は10倍になり、1単位下がるごとに10分の1になります。
計算例
pKa 6.1の成分を用いてpH 7.4のリン酸緩衝液を調製する場合、比率は $$10^{(7.4 - 6.1)} = 10^{1.3} \approx 19.95$$ となります。つまり、酸1に対して共役塩基が約19.95必要で、割合にすると塩基が約95.2%、酸が約4.8%です。
一般的なバッファーのpKa値
ヘンダーソン–ハッセルバルハ方程式は、目標pHがバッファーの\(\text{pK}_a\)からおよそ\(\pm 1\)単位以内にある場合に最もよく機能します。共役塩基/酸の比がおよそ0.1~10の範囲にとどまります。下表は、広く使用されているバッファーの\(\text{pK}_a\)値(25 °C付近)と、実用的なバッファー範囲を列挙しています。
| バッファー | pKa | 有用なpH範囲 |
|---|---|---|
| クエン酸(pKa1) | 3.13 | 2.1 – 4.1 |
| 酢酸 | 4.76 | 3.8 – 5.8 |
| クエン酸(pKa2) | 4.76 | 3.8 – 5.8 |
| MES | 6.15 | 5.5 – 6.7 |
| 重炭酸塩(pKa1) | 6.35 | 5.4 – 7.4 |
| クエン酸(pKa3) | 6.40 | 5.4 – 7.4 |
| リン酸塩(pKa2) | 7.20 | 6.2 – 8.2 |
| MOPS | 7.20 | 6.5 – 7.9 |
| HEPES | 7.55 | 6.8 – 8.2 |
| トリス | 8.06 | 7.0 – 9.0 |
| ホウ酸塩 | 9.24 | 8.2 – 10.2 |
| グリシン(pKa2) | 9.60 | 8.6 – 10.6 |
有用範囲はおよそ\(\text{pK}_a \pm 1\)です。この範囲外では、一方の種が支配的になるため、バッファーはpH変化に抵抗する能力がほとんどありません。
目標pH値にわたる塩基対酸比
この比は\(\text{pH}-\text{pK}_a\)の差のみに依存するため、1つの表がすべてのバッファーに対応します。pH単位の1ステップごとに、比は10倍変わります。パーセンテージは、共役塩基\(\text{A}^-\)対酸\(\text{HA}\)として存在するバッファー全体の割合を示しています。
| pH − pKa | 比 [A−]/[HA] | % 塩基(A−) | % 酸(HA) |
|---|---|---|---|
| −2.0 | 0.01 | 0.99 % | 99.01 % |
| −1.0 | 0.10 | 9.1 % | 90.9 % |
| −0.5 | 0.316 | 24.0 % | 76.0 % |
| 0.0 | 1.00 | 50.0 % | 50.0 % |
| +0.5 | 3.16 | 76.0 % | 24.0 % |
| +1.0 | 10.0 | 90.9 % | 9.1 % |
| +2.0 | 100 | 99.01 % | 0.99 % |
中点(\(\text{pH}=\text{pK}_a\))では、塩基と酸が等しく、バッファー容量が最大になります。\(\pm 1\)単位を超えると、一方の形態がバッファーの90 %以上を占めるため、容量は急激に低下します。
よくある質問
なぜpHはpKaから±1単位以内に保つべきなのですか? ±1 pH単位を超えると、緩衝液の90%以上が一方の成分に偏り、pH変化に対する抵抗力が弱まるため、緩衝作用が十分に働かなくなります。
温度は影響しますか? はい。pKa値は温度によって変化します(特にTrisが顕著です)ので、実際に使用する温度でのpKaを用いてください。
比率を実際の量に換算するには? 緩衝液の総濃度を決め、表示された塩基と酸の割合に従ってそれを分配してください。