このツールでできること
「スリップ痕から速度を計算するツール」は、車両がスリップを始めた瞬間に出ていた最低速度を推定します。事故鑑定(交通事故再現)や科学捜査の分野で古くから使われている手法です。路面に残ったタイヤのスリップ痕の長さを測り、路面の摩擦係数(ドラッグファクター)と車両の制動効率がわかれば、スリップ開始前のおおよその速度を割り出せます。なお、この計算では距離をフィート(ft)、速度をmph(マイル毎時)で扱う米国式の現場公式を採用しています。日本では距離をメートルで扱うのが一般的なため、入力・換算の際はご注意ください。
使い方
スリップ痕の長さをフィート(feet)で、路面のドラッグファクター(乾いたアスファルトは約0.7、濡れたアスファルトは0.4〜0.6、砂利は0.5〜0.7、氷は0.1〜0.2)を、そして制動効率をパーセントで入力します(全輪がロックして均等に制動した場合は100%)。すると、推定速度がマイル毎時(mph)・キロメートル毎時(km/h)・フィート毎秒(ft/s)・メートル毎秒(m/s)で表示されます。
計算式の解説
現場で広く使われている公式は $$v = \sqrt{30 \cdot d \cdot f} \times n$$ です。ここで \(d\) はスリップ距離(フィート)、\(f\) はドラッグファクター、\(n\) は分数で表した制動効率を指します。定数の「30」には重力と単位換算がまとめて組み込まれており、結果が直接mphで得られるようになっています。背景にある物理はエネルギー保存則です。運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) が摩擦による仕事 \(\mu m g d\) で失われると考え、これを変形すると \(v = \sqrt{2\mu g d}\) が導かれます。実際の制動は完全ではないことが多いため、効率係数 \(n\) を掛けて結果を下方修正します。
計算例
たとえば、ドラッグファクター0.5の路面に60ftのスリップ痕を残し、ブレーキの効率が80%だったとします。まず基本項を計算します:$$\sqrt{30 \times 60 \times 0.5} = \sqrt{900} = 30 \text{ mph}$$ 次に制動効率を掛けます:$$30 \times 0.80 = 24 \text{ mph}$$(約10.73 m/s)。これはあくまで最低速度です。スリップが始まる前に失われたエネルギーは含まれていないため、実際の速度はこれより高かった可能性が高いといえます。
よくある質問
これは正確な事故時の速度ですか? いいえ。あくまで最低限の推定値です。制動前の走行距離、衝突で吸収されたエネルギー、路面の勾配などにより、実際の速度はさらに高くなることがあります。
どのドラッグファクターを使えばよいですか? 摩擦試験の結果や、路面・タイヤの状態に応じた公表データの値を使ってください。乾いたアスファルトでは0.65〜0.75が一般的です。
なぜ制動効率を考慮するのですか? すべての車輪がロックしない場合やブレーキが不均一な場合は、摩擦力が十分に働かないため、効率によって推定速度を補正する必要があります。